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物語の前半はヘリや原発についての説明が多くはっきり言って飽きますが(笑)、
半ばを境に一気に駆け出します。
そっから先、数々の伏線が一点に向けて集約する疾走感たるや……スゴいです!
更にその中で、自衛隊と原発、両者の共通点を描き出し、その一番問題視しなくてはならないものの正体をラストで言い当てます。
二つの共通点をこんなセリフが表してます。
『嫌われもの。なかったら困るくせにそんなものいらねえと世間から冷たく見られるもの』
……涙がでます。
それでも読後が気持ちよいのは、キャラの配役が見事だからでしょう。
本屋に並ぶ原発に関する本の多くは、著者が反対派に重心を置いていますが、本書はフィクションとはいえ中立的な立場で描いています。その中立性を出すために好感、嫌悪感を持つキャラを各組織に均等に配置しているのです。
好印象を持ちにくい原発施設の責任者に勇敢で誠実なキャラを配し、原発の安全に命をかける様を描いています。
自衛隊員にもヒーローを配し、賛美や光が当たるようにしています。とくに自衛隊救難隊の活躍の様は、カッコイイったらありません!小躍りしちゃいます!
勿論その反面、両組織に仄暗い面があることも均等に描いています。
そしてサスペンスの存在理由、何故犯人はこの犯罪を成すに至ったかというところで、
先に言った『本当に問題にすべきものの正体』が明かされます。
原発労働者の話は私も過去にいくつか読んで思ったのですが、
なぜ原爆の構造や被害については平和教育でさんざ小学校から教えているくせに、原発についての教育は皆無に等しいのかということです。
原発問題の根幹は、セキュリティという言い訳で必要な情報が国民に晒されていないことであり、多くの国民もまたそれを見て見てみぬふりをして、関心をもたない事にあります。
解らないから怖い、何となく怖いから自分の町にはあって欲しくない。
『知らない』は時に罪になるのかもしれません。
『世の中には知らなきゃいけないことがある。ヘリの構造は知らなくてもいいが、原発については知らなきゃいけない』
と登場人物が言っています。
救難隊の命懸けの仕事はテレビで度々賛美されますが、原発労働者が命懸けで一次冷却水を掃除していることを知っている人はどれだけいるだろうと…。
それにしても、
ローター径32メートルのヘリなんて想像ができないっす……。
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