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同人的内容の「小噺」シリーズです。
妄想が止まらなくなった作者の、しょうもない掃き溜めです。
「ジパング」本作品、各団体とは、一切関係ございません。
同意される方のみご覧になってください。
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小噺① つながっていくもの・・
「失礼します!」
聞きなれた声と共にドアが開いた。
書類をまとめていた角松が驚いて振り返る。
「コーヒーをお持ちしました」
はにかんだ尾栗が、熱い湯気の立つカップを差し出した。
「・・・・フツー、『入れ』とか言われてから入室するだろ・・・・?」
信じられんヤツだ・・・という角松の表情をものともせず、
尾栗は『友人』の面持ちでカップをぐいと勧めた。
たじろぎつつ、受け取る。
笑みをたやさぬ尾栗の顔に、つられて自分の顔もほぐれるのがわかった。
「・・コーヒー・・・まだ残ってたんだな・・」
懐かしむように、ゆっくり味わって一口すすると、
緊張した肩がゆっくり下りていき、思わず溜息が出た。
「あ~~、うまいな・・・」
リラックスしている角松に満足して、尾栗はポンと肩を叩く。
「そのコーヒーな、大事に飲めよ」
「ん?もう少ないからだろ?」
「いや。確かにもうほとんど残ってないんだが、
それな、フツウのコーヒーじゃねえんだ」
思わせぶりの口調に、角松はいぶかしみ、身を乗り出した。
「どういう意味だ?」
「あのな、いつ誰が・・って言うのは分からないんだが、
『ジンクス・缶』て言うのがあってな、羊じゃねえぞ・・・・なんだ?笑えるだろ?まあ、聞けよ、
あるヤツがコーヒー一杯我慢して臨んだら弾に当たらなかったんだと。
で、それがいつの間にか広まって、
『願掛け』っていうか『ツキを残す』っていうか・・・・、
なにかある毎に誰かが一杯ずつ、コーヒーを缶に“ストック”してくようになったんだ。
で、そいつが結構溜まってきてな。
この溜めた“ツキ”を誰に託せばいいか・・・って話になったんだ。
・・・・わかるな?」
角松はきょとんとした顔で聞いていたが、
急に真顔になった。
「・・待てよ、じゃあ・・」
「そいつは艦長である『お前』がふさわしい」
手の中のカップは熱く、やわらかくて優しい香りを解き放っている。
思わずそのカップを持つ手に力が入った。
「“重い責務”だぜ。みんなの“ツキ”を背負うんだからな」
皆の運命・・・・、皆の命・・・、
艦長になったときからそれは常に覚悟してきたが、
リアリストの自分でも“ツキ”とか“運”とか言われると、
それはなにか畏れを孕んだ得体の知れぬものを抱え込む感じがした。
角松はやれやれと首を振った。
「・・・そんなものゴメンだな。
メンタルの健康のためにも、そんな妙な我慢や願掛けはするなと言えよ」
「もう一つ意味があるのさ」
かまわず尾栗は、急に優しい顔になって向き直った。
「意味だと?」
「ああ。『因果』ってあるだろ?
苦労するのは前世での借りを返すためだとか、良い行いをしたらそれだけの労いが返ってくるとか。
お前はな、この中で一番自分を律して、他人のためにばっか働いている。
みんな、自分がしなきゃならんかった分の苦労や負担を、お前が肩代わりして働いてきてくれてると感じてるのさ。
コーヒーはその代価としての、お前への労いだ。
お前の飲む一杯のコーヒーは、誰かにお前がしてやった“徳”なんだよ」
唖然として聞いていた。
「な・・・なんだ・・・?
お前いつから坊主になったんだよ?」
こんな話するヤツだったかと、ちょっと肝を抜かれた。
尾栗は一瞬、狐につままれたような顔をして「ホントだな」と呟いたが、すぐに笑って答えた。
「俺にはめちゃくちゃストイックに生きてるお前のほうが、よっぽど坊主に見えるぞ」
「俺が坊主だと?」
苦笑して、コーヒーに目を落とした。
「俺はそんなに吹っ切れた人間じゃねえよ」
信念は持っているつもりでも、
悩み、迷い、暗中模索する日々・・・・忙しくて、責任が重くて、
毎日奔走してるだけだ。
「ま、いいって。あんま考えるな。変なこと言ってすまなかった。
とにかく『頼むぞ!』ってことだ。ちゃんと休めよ!」
好き勝手しゃべって、尾栗は戸口に向かった。
「お・・おい!」
「持ち場に戻ります。失礼しました!」
止める声も聞かずに出て行ってしまった。
ちょっと恥かしかったのかもしれない・・・。
角松は友の気遣いに微笑んだ。
険しい顔ばっかしてたら、周りが畏縮していかんな・・・・・。
首を回して凝りをほぐし、角松はコーヒーを一口、口に含んだ。
安息の刹那、自分を解放し、凝り固まった心身をほぐす・・・・。
誰かに甘えるとか、
誰かに救われてるとか、
もしかしたら自分には関係ないものだと思ってたのかもしれない・・・。
角松はささやかな安堵と癒しに浸っていた。
航跡284 で、まっつんがひとりカップを持っていたので、
誰かにコーヒー入れてもらいたいなあ・・とか思ったらこんな妄想が・・?!
~飛鷹 まなみ~