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皆さんは、人間の身体は脆いと思いますか?
そうではないと思いますか?
原作では沢山のキャラたちが怪我をしてしまいました。
まっつんも右足に大怪我を負ってしまいました。
怪我をしたらどんなことが体で起こるのか。
今回は『血圧』に焦点をあてたお話をしてみたいと思います。
一見ひ弱に見える人類ですが、
我々人類にも、何万年も前から生存競争に勝ち抜いて種を繋げて来た歴史があります。
大昔、人間は常に危険と隣り合わせで暮らしていました。
災害を予見することも防ぐこともままならず、虎や熊、狼といった外敵に狙われ、危険な狩りにも行かなくてはなりませんでした。
怪我をする機会が多く、外傷、出血によって命を落すことが多かったことでしょう。
そこで、長い年月の間に人間は、自らの身体の中に生き残る術を構築してきました。
怪我をすると何が起こるか?
いろいろ複雑な事が起こるのですが、今回は血圧のことだけ考えてみます。
怪我をして出血すると、血液量が減って血圧が下がります。血の流れが悪くなります。
すると身体の組織に血が行き渡らなくなり、栄養や酸素が行き渡らなくなり、老廃物が溜まってしまい、そのうち組織は活動できなくなって死んでしまいます。それがさらに広範囲に進行すると脳が死んでしまい、他の臓器が死んでしまい、ついには個体自体が死んでしまいます。
けれど簡単にはそうならないように、我々の身体はいくつもの「血圧アゲアゲ」のシステムが積まれています。
そのシステムのうちの一つをご紹介します。
血圧の変化を察知するセンサーの一つが腎臓にあります。
このセンサーが血圧の低下を察知すると、腎臓のある組織から『魔法の酵素=レニン』が分泌されます。肝臓から出ているある物質=『魔法のもと』に、この、レニンが降りかかると、その物質は『魔法の物質』に変化します。
この『魔法の物質』は、アンジオテンシンⅡと呼ばれています。
ホルモンの一種です。
(聞いたことがある方もいらっしゃるのでは?)
アンジオテンシンⅡは血圧を上げるため、必死になって体中に働きかけます。
まず、血管を収縮させます。
すると、血液量が多少少なくなっていても、血液を収める容器自体が小さくなるので血圧が上がります。
12両編成の電車に乗ってる200人の乗客が、「今から一両編成になりますんで・・・・」といきなり言われて、一車両に詰め込まれてしまうのを思い浮かべてください。ぎゅうぎゅうです。圧迫感ありますよね?
さらに、頭と腎臓に働きかけておしっこを作らせない、出させないようにします。おしっこは水分として再吸収されて血液に戻ります。これ以上体液の喪失をさせないわけです。
これで200名の乗客は下りることもできなくなってしまいました。
ぎゅうぎゅうの状態がキープされるわけです。
この、生きるための必死の足掻きとも思えるシステム。
「死ぬもんかー!生き残るぞー!」
アンジオテンシンⅡはこうして、太古の昔より『外傷による危機』から生命を守ってきたわけです。
このシステムを積み込めなかった種族は生き残ることが出来ず、長い年月のうちにおそらく自然淘汰されていったものだと思われます。
ところがこの画期的なシステムが、現代の日本では支障となるようになってきました。
そうです。
メタボです。
高血圧です。
原始時代にくらべて3倍以上も延びた平均寿命ですが、加齢による老化で出来た動脈硬化はそれだけで血圧を上げる要因になってしまいます。
ちょっと昔は希少だった塩もたっぷりごっそり摂ることができるようになり、これも血圧を上げる要因になってしまいました。
我々の前にはマンモスはおろか、虎も狼もいません。狩りにでる必要もありません。危険な暴風雨は事前にニュースで知ることが出来ます。
怪我をする機会は激減してしまいました。
怪我をしていなくても、生命活動を支えるためアンジオテンシンⅡは一定量分泌されています。
これまでずっと命を守る助っ人として人類を支えてきたアンジオテンシンⅡは、『余計なお世話』をする厄介者となってしまうことが多くなってしまいました。なかには、アンジオテンシンⅡを悪者呼ばわりする人間も出てくる有様です(涙)
なにしろ最近の高血圧の薬といえば、アンジオテンシンⅡを作らせないようにするものが主役になってきているのです。
ACE(エース)阻害薬(コバシル、レニベース、ロンゲス、タナトリル、エースコールなど)、
ARB(ニューロタン、ディオバン、ブロプレス、オルメテック等)と言われる薬です。
もしお近くの中高年のおじさま、おばさまで「血圧の薬を飲んどる」と言っていたら「なんて薬?」って聞いてみてください。先述した薬のどれかが含まれてる可能性大です。副作用が少なくて臨床反応も良く、すこぶる評判がいいようです。
しかし、
なんだかちょっと切なくなりますね。
ずっと欠かせない役割を担ってきた存在なのに、ここにきて突然、こちらの都合で一方的にリストラされちゃってるみたいで・・・苦笑。
私達の人体は、まさに小宇宙です。
私達が知っていようがいるまいが、太古の昔から生き残るために培われた沢山のシステムが、この人体を守り、実に誠実な運営を続けています。
一つのシステムが駄目になっても、その次、その代わりのシステムが何層も装備されていて、持ち主の気がつかないところで延々と戦い続けています。その用意周到さ、精密さは、神様でも作れないんじゃないかと、一種の畏敬の念すら抱かせます。
知れば知るほど見えてくる、その、生きるための執念といいますか・・・・・強烈な原始の叫びには圧倒されます。
「死ぬものか!生き残れ!」
私達の意志などそこには介在しません。
アンジオテンシンⅡを始めとする色々なホルモン、色々な免疫細胞、そういった命の番人達は身体を守るために黙々と、今日も我々の体内を走り回っているわけです。
そして時々、
私達の魂の強い想いと連動して驚異的な働きを見せることがあります。
余命宣告された人が、その期限を過ぎてもなお生きている姿がまさにそれです。
私という個体はありふれた、酷く平凡な存在です。
吹けば消し飛んでしまうような、ちっぽけな存在です。
でも、そんな自分も、こんなすごいシステムをいくつも兼ね備えた身体を持っているわけです。
そう考えると、もうそれだけで、こんなすごい身体を持って生きているだけで、すごいというか・・・・ありがたいなと、もっと体を大事にしなきゃな・・・と思えてくるんです。
まっつんは酷い怪我をしています。
でも、
何故だか逆に強く見える。
まっつんの身体も生き残るために必死に足掻いているのです。
まっつん自身が知らないところで、まっつんの身体は叫んでいます。
「死ぬものか!生き残れ!」